職場
インタビュー

12年間の看護師経験を経て市議会議員になりました。その後、24年に渡る議員生活から引退したのは、「がん」になってしまったから。告知を受けた当時は、直腸がん末期の家族の自宅介護もしていました。私は、がん患者を持つ家族、がん治療を受ける患者、その両方を経験したのです。自身の手術を受け、体調を取り戻し、「がんと向き合った経験、看護師としての経験を活かしたい」とがんサロン「たんぽぽカフェ」の運営をスタートしました。現在も、がん患者様とそのご家族様が「心の荷物をちょっと下ろせる場所・当事者同士ならではの話を気軽にできる場所」として、生涯学習施設や公民館で定期的な集いを継続しています。嬉しいことに、開催場所は少しずつ増えているんですよ。

たんぽぽカフェで開催する公開講座、その講師として協力してくれていたのが、このたび、当在宅看護センター「晴／はる」を立ち上げた赤瀬です。患者様を第一に考え、寄り添い続けるステキな看護師だと思っていました。話してみると、自分の看護に深くこだわりを持ち、誇りを持って日々挑んでいる。その真摯な眼差しと迫力に刺激を受け「彼女のような看護師がもっと増えれば、この世界をもっと良く変えていける！」と、期待を感じました。「晴」は起業した看護師が主体的に在宅看護を行う事業の先駆け。生活を整えて命の消耗を減らす、まさに看護師の力が発揮できる生活場面でのサポートを実践します。訪問・在宅看護の強化は国策としても進められており、私が非常勤講師を務める学校でも、教育はそのように動いていると実感できます。自分らしい日々の暮らしを大切にしたいと考える患者様も多くいます。「晴」の取り組みが、岡山における訪問・在宅看護のスキルアップや全体の底上げ、ネットワーク構築を後押しできるといいですね。

患者様に対してできることは「受け止める」こと。そんな私が「看護師としてもっと社会貢献したい」と、たどり着いた姿が、医療と患者様の生活を繋ぐ役割を担う「メッセンジャーナース」です。これから在宅看護の現場で出会う患者様、そしてご家族様にも、困った時にはいつでも思い出して、何でも相談してもらえる存在になりたい。患者様が今まで躊躇して発信できなかった、ケアに対する疑問や、「もっとこうして欲しい」という要望を、全て受け止めて新たな道を一緒に見つけていけるようなコミュニケーションを図りたい。患者様が、その方らしく生きるために私たちができることは何か？…と、より良いサポートの方法を、連携する様々な事業所・施設と探っていきたい、と思います。患者様の思い全てを「受け止める」のは、若い看護師たちにとっては難しいことかもしれませんが、いつか、できる時が来ます。そういう力を養っていってほしいと思います。

看護師は患者様に育てていただける仕事です。一生懸命寄り添おうとすれば必ず育つことができます。患者様一人ひとりと向き合って、「患者様のために」と思うそのたびに、あらゆる技術・知識が身に付きます。その上で、これからの看護師に更に必要なのは、医療側、患者様側の中立的な立場で物事を決断し、進めていくための判断力です。特に、地域での「暮らしを支える看護」として期待が高まる「訪問・在宅看護」に携わる私たちには今後求められる力でしょう。また、私自身はたんぽぽカフェでの出逢いを通して知る患者様・ご家族様の思いを、少しずつでも世に発信していけたら、と思っています。「自分と同じ涙を他の誰にも流してほしくない」と訴える方々の声を力に、医療・福祉を取り巻く環境を向上させ、患者様・ご家族様の流す涙を一粒でも減らしたいのです。実際、県が制定するがん条例に当事者の思いを反映してほしいと意見し、それが採用されたこともあります。伝えさえできれば、たった一人のつぶやきが、世間に大きな変化をもたらせることもあるのです。これからも、がん患者として、看護師として、私にできる限りの力で、患者様・ご家族様を支えていけたら、と思っています。